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4つの庭に挟まれ奥行を感じる家

 東京に比べ敷地にゆとりがある本庄の市街地。自営業を営むSさんはオフィスとご実家に隣接する敷地にご自宅を計画されました。南北が短く東西に細長い敷地は、道路に面する西側が表玄関となりますが、東南側のご実家やオフィスとの関係も考える必要がありました。

◆2つの交差する軸線と緩やかに切り替わってゆく空間

 西側は表玄関としてのハレの顔、東側は裏玄関としての日常の顔。ご夫妻とお子様の3人のご家族が暮らすのには十分すぎるほどゆとりのある家ですが、大きな家にありがちな「散漫な感じ」にならないようにするため、空間に表情の違いやアクティビティーの差を作り出し、それらを緩やかにつないでいこうと考えました。骨になる廊下の軸線が建物中央を東西に貫き、串刺し状にいろんな空間をつないでいく。性格の異なる4つの庭を間に挟んで、空間的な「間」を作り出すことを意図しています。

 建物のほぼ中央には吹抜のあるリビングダイニング。ここが生活の中心です。北側奥には薪ストーブと左右に分かれる2つの階段、反対側の南側にはテレビとローボードを配置。廊下の東西軸と直交するシンメトリーの南北軸として、いやみにならない程度にシンボリックな空間としました。

 リビングダイニングの周囲には、キッチン、スタディーコーナー、畳スペースなどの利用頻度の高い空間を配置。家は大きければいいというものではなく、大きすぎる家は手間もかかり生活するのがかえっておっくうになってしまいますので、主要部分は「ゆとりはあるけれどもコンパクト」にまとめました。吹抜に面する2階部分はプライベートスペース。お子さんはもうそれなりに大きくなっているので、ご夫妻の寝室、子供室へ至る階段は別々に確保。全体で一体感を生みつつも独立性にも配慮しています。

 洗面・浴室などの水回りは家事動線を考えキッチンの隣に配置。アトリエは日常的な生活の場とはちょっと違った使い方を想定しているので、他の部分とは距離を置き、離れ的な性格を持つ空間とし玄関脇に配置しました。

◆図面はこちら

家の中心に位置するダイニング。吹抜で2階とつながり、長手方向はキッチンにつながる。

リビングから薪ストーブを見る。薪ストーブの後は立ち下がりダクト

ダイニングからリビングを見る。短手方向はテレビと薪ストーブが中心軸となる。

リビングから畳スペース、和の庭、アトリエを見る。

テラスからリビング、ダイニングを見る。

キッチンからダイニングを見る。料理の油ハネを防ぐガラスは閉鎖感がなく開放的。

家族で楽しめるアイランドキッチン。奥は洗面

デッキとつながる水回り

浴室はハーフユニット+杉赤身板貼

スリット状の階段から逆側の階段を見る。

ダイニングの横のスタディーコーナー

アトリエから和の庭を挟んで畳スペースを見る。

玄関から勝手口まで一直線に伸びた軸線。

玄関の壁の窪みに設けられた飾り棚

2階寝室から吹抜、子供室までつながる横長の窓からは、隣家の屋根の連なりと空が見える。

 

 

端正で寡黙な表情を持つ西側外観。三角のハイサイドライトから光を取込む。

 

南東側からの鳥瞰

◆構造材は天然乾燥の天竜杉

 構造材は天然乾燥の天竜杉を使っています。新月伐採を主体にした葉枯らし乾燥材です。土台・大引は防蟻、防湿性に優れた桧としています。含水率は30%を切るレベルでKD材(人工乾燥材)の20%以下には及びませんが、天然乾燥材としてはまずまずのレベルです。割れはそれなりに入りますが、色合いや香りが失われないなど天然乾燥材ならではのメリットもあります。天井あらわしの羽目板も同じ天竜杉です。

 また、主要な部分の壁には漆喰の改良版であるエコシックイという左官材料を使い、木の使用と合わせて吸放湿性、吸着性に優れた空間を実現しています。

◆薪ストーブ+ダイレクトゲインを利用したソーラー床暖房

 OMソーラーは屋根から集熱し、その熱を床下に溜め込みますが、今回は南側のガラスから直接室内に取り込んだ暖気(ダイレクトゲイン)を床下に導いてやる方法を採用しています。屋根からの集熱だと集熱の過程で熱がどんどん逃げてしまいますが、この方法ですとそれがありませんし、夏の屋根面の排熱で苦労する必要もありません。設備的にも立ち下がりダクト一本で済むので構造が単純でなおかつローコスト。集熱のON、OFFなどの制御に神経を使う必要もありません。

夏:強い日差しは庇によって遮られる。換気扇や窓により天井面に溜まった熱気を排熱。上下の温度差を利用して換気

冬:冬の低い光は部屋の奥まで差し込み、上に溜まった暖気を床下に戻し、床から暖める。薪ストーブの余熱も合わせて集熱。

 OMだと空気の流れは外気導入か室内循環かどちらかの選択になりますが、ダイレクトゲインを利用した床暖房の場合、集熱と室内の暖気の循環は同時に行えます。さらに言えば、補助暖房との相性の良さもメリットです。OMの場合、補助暖房との同時使用の方法が常に問題となりますが、この方式ならどんな熱源であろうが、天井面に溜まった暖気を集熱すれば良いので、熱源を選ばず、太陽熱と補助暖房をシームレスに利用することができるのです。まさにいいことづくめに見える方式ですが、冬の低い太陽光を受けられる敷地条件と南側に開いた大きな開口が必須条件です。また、換気は別途行う必要があります。換気しながら集熱できるOMの方がその部分では勝っているかもしれません。

 当初は薪ストーブの熱の有効利用をメインに考え、太陽熱利用は2次的にしか考えていなかったのですが、むしろ太陽熱がメイン、薪ストーブをサブと考えても良いくらい効果があることがわかりました。真冬でも天気の良い日には暑いくらいになり、昼間に取り込んだ熱は床下に蓄熱され、夜まで暖かさが持続するそうです。寒くなってきたら、補助暖房として薪ストーブに火をいれれば、太陽熱+薪ストーブの熱をまとめて集熱できるので一石二鳥です。

場所

埼玉県本庄市

構造/階数

木造在来工法/2階建

敷地面積

約313m2 (95坪)

用途地域

第一種低層住居専用地域

建蔽率/容積率

50%/80%

建築面積

約142m2 (43坪)

延床面積

約183m2 (55坪)

設備

電気、給排水、ガス、薪ストーブ+床下暖房TV、電話、インターホン

設計・監理

植本計画デザイン      植本俊介・小川晶子

構造設計

SIGLO建築構造事務所  山口吉紀・堀内綾乃

設備設計

ZO設計室         柿沼整三・堀 静香

施工

八木建設          田島政利

竣工 2008年2月

掲載

チルチンびと2011年1月号(2010年12月5日発売)風土社

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