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前庭と奥庭のあるコートハウス

 下町にある間口6m、奥行19mの細長い土地。その土地に「老夫婦のための介護用住宅を作って欲しい」というのが、クライアントからの要望でした。

 介護用の住宅なので、中はワンルームのようにできるだけひとつながりとし、入口も廊下も水回りも、とにかく車椅子が転回できる位の広いスペースを確保する必要がありました。間口6m、奥行19mという敷地は、都市部では決して狭いとは言えませんが、必要なスペースを積み上げていったら、敷地の8割が建物ということになってしまいました。ビルに囲まれた敷地で建蔽率8割の建物の1階を主に使うというのはかなりの難題です。光を導き入れることが難しいからです。

 中央に中庭を取ると前後に空間が分断されてしまうので、むしろ建物の前面と奥側に2つの坪庭を確保し、中央は階段室を利用して光を導き入れることにしました。

 前庭は陰影がはっきりしたシャープで明るい庭。奥庭は天空光によるほんのりした明るさをかもし出す庭。そして光井戸のように柔らかな光を導く階段室。質の違う3つの光のスペースを挿入することでなめらかな光のグラデーションを描くことを意図しています。

◆図面はこちら

リビングとつながる前庭。できるだけ奥まで光を導き入れるよう吹抜とした。

陰影のコントラストを作り出すルーバー

ルーバーは視線は遮り光は通す

やわらかな光で満たされた奥庭。寝室(左)、浴室とつながっている。

中央部分に設けられた階段室

段床を通して塔屋から柔らかな光が導かれる

ルーバーだけの寡黙なファサード

門扉を開けると玄関が現れる。

ルーバーに囲まれた前庭

玄関からリビングへと通ずるスロープの見返し

波板スクリーンに囲まれたエアポケットのような奥庭

キッチンからリビング・前庭を見る。左側の収納家具の裏がスロープとなっている。

介護のことを考え洗面と浴室は一体化

リビングからキッチン。キッチンの上はタタミ部屋

浴室からの奥庭。左は寝室。

◆気配を感じる「バリアフリーハウス」

 この住宅は「バリアフリー住宅」ですが、床は完全フラットにはしていません。上がり框こそありませんが、玄関には3cm程度の段差がありますし、フローリングとテラスの間にも若干の段差を設けています。

 完全フラットにしなかったのには、もちろんわけがあります。住まわれる方はすでに自力で車椅子を漕ぐことはできない方なので、健常者が車椅子を押すのであれば若干の段差はさして苦にならず、フラットにすることで生じる様々なディメリットを考えると、むしろ最小の段差で処理した方が良いと判断しました。“段差なし”にすると、グレーチング(排水のための溝)が必要だったり、防音や防水の面では難しさもあります。今回の場合、敷地が幹線道路に面していることが決め手になりました。

 家は障害のある人だけが暮らすわけではありませんので、「バリアフリー=とにかく段差をなくす」のような硬直的な思考に陥るのではなく、障害の程度や部位によって、何をどうすべきかというのもその都度考える必要があると思います。そういう意味ではバリアフリー住宅というのはなんら特殊なものではなく、一般の住宅の延長線上にあるはずです。

 「最小の段差」は外部や水回りの部分だけで、それ以外の部分はもちろん全てフラットにしています。玄関からリビングへもスロープを通ってアプローチするようにしています。段差をなくすこともさることながら、むしろ重要なのは動線や視線のデザインです。この家では介護のことを第一に考え、寝室と水回り、トイレができるだけ近接するようにレイアウトしました。リビング・キッチンからも直線的な廊下によってストレートに結ばれています。玄関からリビングへはスロープとなっていますが、横の収納の上をオープンにして、視線を遮りつつも光や気配は繋がるようになっています。

 リビングを吹抜としたのは、もちろん下の様子がわかるようにするためですが、お互いの気配がわかるようにするというのは、介護用住宅では特に大事なポイントです。いつ何時何が起こるか予想がつかないからです。

 

◆機能主義一辺倒ではない「ユニバーサルなデザイン」

 白い壁、白い天井、明るい床。吹抜のあるLDK。天井までの大きな開口。この家は空間ヴォキャブラリーという点では、ある意味ではモダンハウスの王道を行っているかもしれません。

 完成するまでは、こんな若々しい空間で果たして良いのだろうかという自問は確かにありましたが、出来てみると、空間テイストというのはさして問題とはなりませんでした。白い壁というと、すぐさま病院がイメージされますが、目指したのはもちろん病院のような機能一辺倒ののっぺりとした空間ではなく、陰影のある空間です。使いやすくて、居心地が良くて、美しい空間ならば、テイストの問題を超えてある程度普遍的に受け入れられるものなのです。しかしそれは最大公約数的な解決とも違います。そもそもこの住宅は敷地や建て主の固有性を最大限に生かそうと考えたものなのですから。

 私は、生活雑器のような日常のあたりまえの道具としての建築を追求しているわけで、日常的な動きの中からあぶり出される価値を大事にしたいと考えます。前面をルーバーにしているのは、光を入れつつ視線を遮るため。プラスターボードを使っているのは、手に入りやすい材料で安いものだから。白く塗っているのは、光が反射して奥まで光が回るように考えてのこと。“表現”に意味を後付けするのではなく、“意味”を表現に昇華させる。それがデザインだと思うのです。

場所

東京都江東区

主体構造/階数

鉄骨造2階建+塔屋

用途地域

商業地域

敷地面積

約114m2(35坪)

延床面積 約168m2(51坪)

設備

電気、給排水、ガス、空調、床暖房、TV、電話、インターホン

設計協力

関裕之建築設計

関 裕之

構造設計

SIGLO建築構造事務所

山口吉紀

設備設計

五十嵐設備設計

五十嵐隆一

施工

赤羽建設

竣工

2003年9月

掲載

日経新聞社website住宅サーチ「こだわりのデザイナーズ住宅」

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